見 跡 (四十)
弘舵郎
地球一周の船旅
「無人島に持参する一冊の本は何か」の問いかけを見聞するが、兎に角旅は軽少短薄が第一、そこで船旅だから波浪不能没の「妙法蓮華経」、「禅宗で読むお経入門」岩波文庫「俳句への道」を携行した。時間は沢山あるし、異文化と大自然を相手に見たり考えたりしていると高浜虚子先生の客観写生の影響大にしてポコポコ五七五が浮かんでくる。常時持ち歩いていたメモ帳にその都度書きとどめた俳句らしきもの、川柳もどきを笑覧に供する訳ですが、季語、字余りはわれ関せず、コースの説明にもなるので敢えてペンをとりました。
5月22日 晴海出航 23日より毎日早朝後部甲板の片隅で坐禅をしたが一人も同調者が現れない。
残月に波の音ききつ独坐する
5月31日 シンガポールが近い
夏の海ボートデッキでうたたねす
6月3日 ベンガル湾に入る
なみ舷をたたき船たえて進む
6月6日 スリランカの仏教寺院
山内ははだしがきまりベラン寺
6月9日 赤道通過
走っても走っても海印度洋
6月11日 セイシェル島上陸
セイシェルはみずえの似合う美しさ
6月15日 ケニヤのサハリパーク
ライオンはどこ赤き道ひたすらに
6月19日 紅海に入りエリトリア上陸
十字星左にきらめき船はゆく
紅海は名のみにして青き海
原住民との交流会会場野外スタンドで
両手に花だうしろも華よと声かかる
むし暑いメッカは見えず砂漠のみ
6月25日 昼飯は弁当で運河見物
弁当をデッキでたべて スエズみる
6月27日 エルサレムの嘆きの壁にて
嘆きのかべでおもわず念ず観音経
6月30日 船は地中海に
小島ありヨットも浮いてる地中海
7月8日 ジブラルタル海峡に入り 10日スペイン領ラスパルマス島に上陸し 11日大西洋へ
大西洋ひねもすのたりのたりかな
7月16日 日の出なのに残月あり。徹夜で遊び疲れた若い女「スゴイ日の入りネ」、「ちがうよ日の出だよ」
7月21日キューバの保養地アラデロで
青い空朝日を浴びて海に浮く
7月26日パナマ運河をぬけて太平洋に出る
パナマぬけ祖国は目の前太平洋
7月30日 船首に砕ける波の音を飽かず聞く
なみの音たとえるものなし心地よく
8月9日 シケ模様で寒く外に出られない
肌寒く窓ごしにみる白い浪
8月14日 バンクーバー入港が近い日
船ゆれて行事は中止しらせあり
8月15日 日附け変更線を通過する。 日の出あって日の入りなく、日の出なくて日の入りがある。
昼過ぎて日付を変える面白さ
目の下でイルカのジャンプご挨拶
8月18日 太平洋渡るにかかる2週間、海ばかり
とぶ鳥のねぐらはどこか気にかかる
8月20日 入港も近くなり親しくした人との別れも近づき気持ちの整理にかかる。
船の恋逢うは別れのはじめなり
船の恋うたかたの如く海に消え
寝椅子にて別れを惜しむ船の旅
恋うせて下界に戻る気はよいか
好きだ嫌いがなかりせば楽しかるべき 船の旅
8月22日 末明に晴海に上陸、ホテル浦島に泊まる。ホテル前の赤提灯にとびこむ。
憂き世は嫌だと旅には出たが陸に上がれば屋台店
ご精読ありがとうございました。