経典にみられる医学・薬物
古代インドでは、人間は大宇宙の縮図の小宇宙であると考えられた。したがって、人間は大宇宙と同じ物質から構成されており、それは地・水・火・風の4元素であるとした。そして4元素の均衡が破れると病気になると考えた。たとえば、風の元素がほかの元素より強くなると風病に、水の元素が強くなると水病になるという(「十誦律」)。
病気の種類は、「摩訶僧祇律」では40病あると述べている。
治療については、名医ギバの6種類の治療例をあげねばならない。
@今日の灌鼻法でなおした例、
A痔を切開してなおした例、
B頭痛を脳手術でなおした例、
C腸捻転を開腹手術を行ってなおした例、
D頭痛を酥(現代のバター)をのませてなおした例、
Eシャカの下痢をなおした例(「四分律」)である。
これで、古代インドの医学がいかに進歩していたかがよくわかる。
内科系疾患の例では、多くの出家僧が秋になると、発熱・消化不良をおこし、精神的にすっきりしないで、やせて皮膚のつやがなくなる病気にかかった。シャカは治療法として、粒のあらい穀物を食べてはいけない、酥・油・蜜(蜂蜜)・石蜜(甘しょからつくった砂糖)の4種の消化薬がよいと述べた(「十誦律」)。
外科系疾患の例としては、あるとき樹木の枝にいた蛇が、樹木の下にいた出家僧の腕に落ちてきて、腕をかんでその毒で出家僧を殺してしまった。これを見たシャカは、これかは蛇にかまれたら、その部位を刀で切って血液を出してから薬をぬるとよい、といわれた(「四分律」)。
薬物には、時薬・夜分薬・七日薬・尽寿薬の4種類がある。時薬とは午前中に食すべきもので、すべての根類・穀類および肉類がこれに相当する。夜分薬とは午後および夜分にのむことがゆるされている飲物で、14種類ある。七日薬とは、酥・油・蜜・石蜜・脂・生酥(現在の原バター)をさし、病気にかかった出家僧が7日間持つことができる。尽寿薬とは、一生涯持つことができるものをいう(「摩訶僧祇律」)。
これらの薬物をみると、自然に存在するすべての動植物が用いられており、宇宙と人間とは一体であるという思想に基づいていることがわかる。(『看護史』より)